「EU:帝国という亡霊」吉田徹

  • 「α-Synodos vol.0」
21世紀における帝国はより狡猾である。 この帝国は、主権国家体制が内破した戦後にまずアメリカからマーシャル・プランという名の援助を引き出し、かつ米軍を駐留させてソ連と共産主義という、もうひとつの帝国から身を守ることに成功した。外交史家のルンデスタットは、欧州は自らの利益のためにあえてアメリカ帝国を招待したと分析する(『ヨーロッパの統合とアメリカの戦略』)。神々が繰り広げるグレートゲームの始まりである。

この帝国は、冷戦というタガが外れると、単一市場の完成度を高めて周辺を徐々に「植民地化」していった。例えば、その国が民主主義的でなければ、あるいは市場経済を採用していなければ認めない、という姿勢を貫いた(『コペンハーゲン基準』)。一方で「近隣諸国政策(ENP)」なるものを打ち出し、帝国による分け前を域外に少しずつ流出させて求心力を増した。

軍事力を伴わない帝国だから、運営は割安に済む。マイクロソフトに対してEUが一企業に対する制裁金としては史上最高となる約25億ドルもの支払いを求めたことは記憶に新しいし、温暖化ガス排出規制のスタンダード作りも同様である。「自らが望む政治体制を、暴力を用いず、経済的な優位を間接的に利用しつつ、実際の決定は従属国の自発的な行為によって行わせる」ことができる(鈴木一人「規制帝国としてのEU」)。今年EUは、「地中海連合」なるコンセプトのもと、マグレブ・湾岸諸国との「協力関係の強化」を打ち出す。東への拡大が行き詰った帝国は、南に顔を向ける。
 これまでにも、西洋社会の普遍性と帝国主義が表裏一体であったことや意識下の帝国を暴露する作業はカルチュラル・スタディーズ周辺を中心になされてきた。しかし、目の前にあるEUは歴史でも意識でもない具体的な権力を持ったパワーである。



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