はじめに 〜シノドスの動機と方針〜
対談:芹沢一也×荻上チキ
芹沢: それに一番ハードな格差があるのは、じつは大学じゃないですか。非常勤講師って一講義、数千円でしょう。準備にもすごく時間がかかるから、労働に対してまったく割に合いません。しかもたんに消耗していくだけ。あれこそ使い捨てですよ。だけどそうした使い捨て労働者を活用することで、大学の教員は所得が保障されているわけです。いまの日本企業の構造とまったく同じです。そういうシステムを温存しつつ、「多様性」といってもちょっと信用できない。
だから僕たちは大学の外にチャンネルを作る。寄稿してくれた方には、身分を問わず某老舗思想雑誌以上にお金を払いますし(笑)。それこそ言論の価値を高めるために、ちゃんと経済的な循環を作りたい。手弁当主義は批判し、きちんとお金を出せるように工夫する。
荻上: 僕はもう一つ、地域の問題についても触れたいと思います。インターネットのおかげで、販路を持たずとも誰もが今すぐ情報発信をすることが可能になりました。しかし、未だに論壇は東京のものみたいな空気がある。ブログで知り合い、よく一緒に講演会やイベントに行く友人がいるんですが、彼は地域出身で東京の講演会の多さに驚き、地方の人にも知ってもらいたいと積極的にイベントの参加レポートを書いていました。地方には講演会などがそもそも少ない。しかし講演に参加したい人も多くいるでしょうし、講演をできるような方も多くいるはず。
元々シノドスでは、セミナーに来ていただければ、直接講師と濃密な議論ができて、その模様がメルマガやその他の媒体に形に残る。地域にいる方であっても、質問や寄稿の文章を送っていただければ、メルマガに反映される。そういう軽やかメディアを一つ増やすことが出来ればと思います。
書籍を読み、物を書き、その知的コンテンツをパッケージ化する。書きたい人には場所とお金を用意し、読者の知りたいことを提供する。リクエストがあれば講師に招いたり取材をしにいく。目の前に有るツールを使いこなして、政治・運動・学問、それぞれの言説の土壌を設計しなおすことで風通しをよくしたい。メールマガジン以外にもいくつかチャンネルを用意しており、それらが実現できればさらにチャンネルが増えるようになります。近視眼的に多様性へのバックラッシュみたいなものを掲げてもしょうがない。
芹沢: 今は活用できるたくさんの技術や方法がありますからね。「多様性」を哲学や崇高な理念にしてしまっては駄目ですよ。たんに実在し、可能なものとして提示すればいい。そしてそれは、そこまでたいそうなものでなくてもいい。まずは試行錯誤してみることです。そこからはじめましょう。