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はじめに 〜シノドスの動機と方針〜

対談:芹沢一也×荻上チキ

荻上: 先ほども述べたように、『思想地図』とは前提を多く共有していると思います。人文系のコンテンツは今でも魅力的で有効です。政治、心理、社会設計などの場でも、今でも効力を持つ。しかし一方で、人文系の知が失効しているかのようなムードになっていて、どんな道具が揃っていたのかも忘却されがちな状況もある。思想をアップデートしつつ、道具の使い方を提示するということ。シノドスでは、言葉と理論の武器屋のように機能するメディアを担いたいですね。

芹沢: これからはメディアや大学の役割も変わっていくでしょう。そんな中、こういうメディアを作ることは一つのロールモデルにもなると思う。

思想史の研究者として現代の日本を観て思うことは二つあります。一つは、社会民主主義の伝統がないため、再分配という概念が政治理念として鍛えられていない。市野川容孝さんが日本人は「社会的」の意味を理解していないと論じているけれど、それはたんに日本の政治文化に社民の伝統がないだけのことです。だけど、僕個人は社民を嫌っているので、こうした問題にはあまり関心がない(笑)。

もう一つは、「多様性」という言葉が、それこそクリシェ化している割には、社会規範やモデルがほとんど壊れていないということ。なんだかんだいっても、日本社会では今でも正社員のみが市民です。大学院生や研究者も、大学の教員になることしか頭にない。これは実は根深い問題です。「多様性」って、口でいっても実現できない。学術論文に「必要なのは多様性を担保するデモクラシーだ」なんて書いても、当たり前だけどそんなものはできはしない(笑)。実際に体現するしかないんですよね。

そこで僕が考えていることはすごく単純です。情報をインプットし、加工しアウトプットすることで対価を得て、かつ有効な議論を生産する。この作業を大学以外のところでも可能にするということ。可能にするというのは、経済的なものに裏打ちされたものにするということです。こういうメディアをシノドスがまずは一つ作る。そうすれば、既存のシステムに、少なくともひとつ、ほかの生き方をつけ加えたことにはなる。これがぼくにとっての多様性です。

ポストモダンを掲げた人の多くは、大学で生きている人たちですよね。彼らは多様性をお題目にしていたけれども、実際には全然多様なチャンネルを作ってきていない。このあいだスガ秀美さんをお呼びしたとき、物書きが生きていくには大学に属するか、資産家の家に生まれるしかないとおっしゃっていましたね。でもそれでは、「売文社」の堺利彦に頭があがりませんよ(笑)。





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