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はじめに 〜シノドスの動機と方針〜

対談:芹沢一也×荻上チキ

芹沢: このことは思想や批評が語るべき言葉を失ったということです。いわば現実によって無効化されたといってもよいでしょう。だがしかしです。しかし、語る言葉がない状態で新しいものと向きあっても、一度語ってそれでおしまいになりがちです。「現実」にベタっと密着して、そのことを語りさえすればいいということになる。他方ではそうした状況があって、それに対する苛立ちがありました。

そこで必要なのは理論であり思想なんだけれど、それが不在だから何とかしたかった。起こっている事態を目に見えるようにする作業をしながら、それを語る言葉を見出さなくてはいけない。だからシノドスで色々な方をお呼びし、現実について語りながら、理論や思想を検討していくという作業を行なおうと思ったんです。

シノドスのセミナーでは、「現実」を伝えてくれるような方をお呼びしてきました。たとえば雨宮処凛さんや本田由紀さん、あるいは阿部真大さんといった、雇用や労働、教育問題に取り組んでいる方たちです。そうした領域では、文化論などではすくい取れない新しい問題が実際に出てきているので、それらを可視化したいという気持ちがあったからです。

しかも、そうした領域は文化論的な語りが根強かったために、まさに「現実」が「現実」として露呈するのを、文化論が妨げてきたという経緯もあったので、そのあたりのことをお聞きしたいというのもありました。

雨宮処凛さんをお呼びしたとき衝撃を受けたのは、正社員と派遣の何が違うかという話になったとき、例えば「高所作業の際の足場の面積が違う」と言うんですね。正社員は命綱をつけて、しっかりとした足場で作業をするんだけれど、派遣にはそうしたセキュリティへの配慮がまったくないという。

そういう現実を受け取りつつ、思想や批評はチューンナップしていかなければならない。シノドスでは同時に、萱野稔人さんや橋本努さんといった社会思想の研究者、あるいは鈴木謙介さんや高原基彰さんなど理論に強い社会学社をお呼びしてきましたが、それは彼らとともに、現実を分析するためのフレームを検討したかったからです。

荻上: 「文化で社会を語れなくなった」ことに対する反動として「現実」だけを指摘し続けること、「現実」と向き合わずただ慣性のままに理論を唱え続けること、そのいずれも疑問を抱いていたわけですね。大文字のアカデミズムで行われている知の体系をベースとすることは必要ですが、そこに回帰する、これまでの骨法を疑わず代入ばかりするのはまずい。逆に「現実」と向き合うことは重要ですが、方法論的にテーマ批評的にしかなっていないのもまずい。思想的な言葉がないと、数年前に起こっていたことでさえ忘却してしまう。その都度新しいテーマに飛びついて「論破」していっても、再解釈と精緻化の場がなければ、言説空間が変わればすぐにリセットされてしまう。だから、重要な議題を表に出しつつ、理論について語る場を構築する必要があるということでしょうか。





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