日時 2008年8月17日(日) 15時~17時
講師 信田さよ子(聞き手:芹沢一也 司会:荻上チキ)
タイトル 「家族内暴力の臨床-加害・被害と世代間伝達」」
セミナー概要
カウンセラーというと、たいてい「心の問題」を扱うのであり、現状補完的・再適応促進的機能を果たす職業と思われがちである。私は70年代からアルコール依存症の臨床にかかわり、その後アディクション一般、さらには背後の家族への介入、暴力の加害・被害へと対象を拡大してきた。日本では、アディクションは精神科医療においてマージナルな対象であり、まして臨床心理学においてはほとんど扱われないといっていい。アメリカが例外なのは、プラグマティズムの伝統と、マイケル・ムーア監督「シッコ」で描かれているように、国民皆保険が撤廃されていることと無関係ではない。95年以来開業カウンセリング機関を経営しているが、まず本セミナーでは精神科医療とわれわれの実践との区別を知っていただきたいと思う。さらに、近年のDVや虐待防止の流れがどのようにカウンセリングの現場に影響を与えているかについてもお伝えしたい。
現在、私はDV被害者、虐待被害者、DV加害者を対象としたグループカウンセリングを実施しているが、そこで展開するものは「心」の変化ではない。中心的課題は「責任」であり、「正義」であり、家族(夫婦・親子)観である。そして家族の関係を規定しているものは、まぎれもない権力であり、それは腕力よりも言説の支配によって表現される。また子ども(といっても成人である)の暴力に日夜怯えている両親は、どのように対応したらいいのかを苦慮している。そこで必要とされるのは、「心」のケアや生易しい「理解」でもなく、北朝鮮をめぐる六カ国協議にも似た戦略なのである。親子関係の諸問題は、確実に次世代の問題と重なることはいうまでもないだろう。このような日々の臨床活動が私の仕事である。個別具体的な家族の臨床現場と、社会歴史的変動とがどのように切り結ぶのかを当日の参加者の皆様といっしょに探っていきたい。
信田さよ子(のぶた・さよこ) 1946年生まれ。お茶の水女子大学哲学科卒業後、同大学大学院修了(児童学専攻)
駒木野病院勤務などを経て95年に原宿カウンセリングセンター設立、所長として現在に至る。2003年度、内閣府男女共同参画推進課「配偶者からの暴力の加害者更生に関する調査研究会」ワーキングチームメンバー、2005年度法務省「性犯罪者処遇プログラム研究会」構成員、お茶の水女子大学非常勤講師などをつとめる。著書に「アダルト・チルドレンという物語」(文春文庫)「アディクションアプローチ」「DVと虐待」(ともに医学書院)、「愛しすぎる家族が壊れるとき」(岩波書店)「結婚帝国・女の岐れ道」(上野千鶴子との共著)「カウンセリングでなにができるか」(大月書店)「加害者は変われるか」(筑摩書房)「母が重くてたまらない・墓守娘の嘆き」(春秋社)などがある。